第8章 追憶の日々
【潤】
俺は、自分の本当の母親の顔も知らない。
写真も持ってない。
小さい頃は、自分が母さんの本当の子どもじゃないなんて、考えもしなかったけど。
後から思うと、子どもながらに、違和感感じてたのかもしれない…
小学校の頃、俺たち兄弟が小さかった頃のアルバムを見ていた時のことだ。
俺は素朴な疑問を母さんにぶつけた。
「どうして僕の赤ちゃんの時の写真、1枚もないの?」
すると母さんは、
「ごめんね、…撮らなかったのかな~」
と、そう言った。
「なんで~!ズルいよ、智ばっかり…
智のはたくさんあるのに!ねえ~、どうして撮らなかったの~??」
「どうして、って…」
「ねえ~、なんで~?」
「仕方ないでしょ!ないものはないのよ」
………
俺は、それ以上何も言えなかった。
言っちゃいけないんだって、そう思った…
智は、そんな俺の事、黙って見ていた。
いつもそうやって、我儘言っても、
それ以上だダメな雰囲気を察して、止めるようにしてた。
だって、母さんが一瞬だけ、怖い顔になるから…
物心ついた頃から、俺はそうして生きて来た。
母親に甘えられないジレンマを、智にぶつけていたのかもしれない。
俺が、理不尽な我儘言っても、
智は大抵受け入れてくれた。
智のおもちゃを欲しがっても、智はいつも貸してくれた。
そんな智が大好きで……
大嫌いだった。
大好きだから、大嫌いだったんだ。
ホントは怒って欲しかったのに…
それでも、俺たちは兄弟として、それなりに
喧嘩もしたりしながら、普通に成長してきた。
そう…あの日までは…