第8章 追憶の日々
「潤くん!?これが、あの?
可愛い…っていうか、イケメンになったわね~」
由美さんは潤の肩に両手をかけて潤の顔を覗き込んだ。
潤は困った顔して俺を見て、『誰??』
と目で聞いてきた。
「由美、コーヒー入れるから…二人もこっちにいらっしゃい…」
母さんは小さくため息をついてキッチンに入っていった。
俺と潤も顔を見合わせたけど、
仕方なく、その人の後について行った。
由美さんが買ってきてくれたケーキがテーブルに並び、母さんが入れたコーヒーのいい香りがリビングに漂った。
「あなたたちのお父さんと美穂ちゃん、ホントに仲良しだったのよ~」
由美さんが俺たちにそう話すと、母親は、
「もう止めてよ~、そんな昔の事…子どもたちの前で…」
照れた母さんは、何だか少女のようにかわいかった。
それから暫く、両親が高校生だったころの話を聞きながら、お土産のチョコレートケーキを食べて過ごした。
子どもの俺たちには部屋に行くように言って、
ふたりは思い出話に浸るようだった。
言われるがままに、俺と潤は部屋に引っ込んだ。
1時間ほど経って、部屋で漫画を読んでいた俺は、炭酸を飲もうと階段を下りた。
その時、
「でもびっくりしたわ~、潤くん、のり子にそっくりよね」
その言葉に、俺は廊下で固まった。
…のり子?
それが、潤の本当の…?
「そうなの…どんどん似てくるんだよね…」
少し困ったような母さんの声。すると、
「でも酷いよね~、博くんも。美穂に内緒でずっと続いてたんだもんね~、のり子と」
「…もう、昔の事だよ…」
「美穂は偉いよ!なかなかできないって…浮気相手の子を引き取って育てるなんて…」
………
由美さん、潤の事…
潤の事情も知ってるんだ。
俺は、話の内容と、
立ち聞きしてしまったっていう罪悪感に、
心臓が、ざわざわと音を立てた。