第8章 追憶の日々
俺たち兄弟の、ヤバい空気に、翔くんが助け舟を出した。
「こうしない?ひとり分はお金出していこうよ…
俺、まだお年玉の残りがあるからさ」
俺たちのただならぬ殺気立った雰囲気に、見かねた翔くんは解決策を提案したんだろうけど。
俺も何だか意地になっちゃってさ。
絶対に行かないって言い張ったんだ。
「そんなことわないで…智くんの好きなアニメじゃん」
「いいの!行かないって決めたから!」
俺はその時まだ子どもで、
潤の心の奥にある絶望も、
両親の間にある小さいけど深い溝も、まだ見えてなかったんだ。
そんなある日の事。
母親が、リビングでテレビを観ていた俺に声を掛けた。
「智、潤は?また櫻井さんのところなの?」
「知らない~?そうじゃない?何で?」
「今から母さんの友達が来るのよ…だから潤も…」
「潤も?」
「…まあいいわ、そのうち帰って来るよね」
「俺、呼んでこようか~?」
「いいから!」
「………」
いつも優しい母親が、一瞬怖い顔をした。
でもすぐにまた、いつもの笑顔の母さんに戻ってって。
俺は見間違いなのかな?って…そう思った。
友達って言う人は、両親の高校時代の同級生なんだって。
「こんにちは」
挨拶した俺に、その人は、
「大きくなったわね~。智くん、覚えてるかな?
私が前に会ったのは、まだ潤くんが来る前…」
「由美!」
母さんは一瞬眉を顰めたけど、由美さんは構わずに、
「ねえ、潤くんは?いないの~?」
「潤は、今…」
そこへ、
「ただいま~…」
潤が帰って来た。