第8章 追憶の日々
だから。
潤も知らないと思っていたんだ。
俺たちが、血の繋がった兄弟じゃないって事。
自分が愛人の子だってことも。
まだ小さかった潤には、
この家に来る前の記憶なんか、あるはずないって…
勝手にそう思っていた。
あの日までは…
俺の記憶の中の潤は、俺と違って感情をストレートに出すから、よく我儘言って叱られていた。
潤が母親に叱られるたびに、
俺はドキドキしていた。
潤のことをそんなに叱らないでよ…って…
もしかしたら、その時はそんなつもりはないと思っていたけど、俺は、
心のどこかで、潤を『可哀想な子』だって…
そう思っていたのかもしれない。
だからなのかな??
翔くんが来てからというもの、潤は俺より翔くんと居ることが多くなった。
太陽みたいに明るくて、優しい翔くんの事は、
俺もすぐに大好きになった。
俺だって、もっと翔くんと一緒に遊びたいのに、
いつも潤が側にいて、
なんだか、俺の入り込む隙がなかったんだ…
そんなある日。
翔くんが新聞屋さんが映画の券を二枚くれたから、一緒に行かないかと誘ってきた。
「「行く!!」」
俺たちは直ぐに飛びついた。
「でも、2枚しかないんだ~、だから潤か智くんか一人だけだよ」
翔くんの言葉に、俺も潤も引き下がらなかった。
俺も見たいと思っていた映画だったし、
何より、翔くんと一緒に行きたかったんだ。
「俺が翔くんと行く!」
「俺だって行きたいよ~、じゃあ、じゃんけんする?」
俺の提案に、潤は、
「いいじゃん!翔くんと俺が行っても!
智は、何でも持ってるんだから…」
そう言った。
どうしてそんなことを言ったのか…
その時は分からなかったけど、
潤の目が…
潤の目の中に、俺に対する憎しみの色を見た気がして…
「じゃあ、いいよ…俺、行かないから…」
俺は引き下がったんだ。