第8章 追憶の日々
【智】
俺は覚えている。
潤はきっと忘れてしまっているだろうけど。
俺たちが初めて会った日の事。
潤と俺の歴史が始まった、あの日…
俺が5歳になったその冬。
潤は親父に連れられてやって来た。
俺より2歳下の潤はその時まだ3歳。
親父に手を引かれてリュックひとつで俺ん家に来た潤は、小さい顔に大きな目の…
まさに天使みたいに可愛い男の子だった。
弟が出来たこと、俺は心から嬉しかった。
天使の潤を俺は凄く可愛がって、
潤も俺にすぐに懐き、
「さとし、さとし」と、何をするにも着いてきた。
小学校6年生の時、
潤がクラスのいじめっ子たちに囲まれているのを見つけた。
直ぐに止めに入り、その子たちを追い払ったけど。
その時、そいつ等が気になることを話していたんだ。
『愛人の子』
潤をそう言って揶揄っていたんだ。
その時は、子どもながらに、
何となく言っちゃいけない気がして、黙っていた。
でも、どうしても気になって、
母親にその話をしたんだ。
すると母親は、大きなため息をついてから話し出した。
その内容は、俺にとっても衝撃的だった。
潤は親父が浮気してできた子で、潤のお母さんが癌で亡くなってしまい、行くところが無くなった潤は親父が引き取ることになった、と。
「潤には言っちゃダメよ、可哀想だからね」
母親はそう言った。
…可哀想……潤は、可哀想な子なの??
俺は、子どもながらに、その事は、
絶対に潤には知られちゃいけないって、そう思った。
翔くんが、ずっと空き地だった隣に建った家に、家族と引っ越してきたのは、その年の秋だった。
だから、翔くんはずっと、俺たちが本当の兄弟じゃないって知らなかった。
「智くんと潤って、全然似てないね~」
って、良く言ってたけど。
俺は笑っていた。