第23章 Gravitation~引力~
麻衣さんも先生も、あんなふうに言っていたけど…
それが本当だとしても、俺にはどうしてやることもできないしな~…
それに、ほのかが大人になる頃には俺はもう、すっかりおじさんで。きっと彼女に相手にもされないだろう
自転車を止め、ほのかを下すと、
「じゅん、見て、どろぼうがいる!」
「え?どろぼう?」
ほのかの指差す先には、店の中の様子を伺う一人の男が…
「翔!」
「じゅん!」
俺は急いで電柱の影にいた翔に駆け寄った
「何やってんだよ、こんなことで」
「あ、いや、じゅんがどんなふうに仕事してるのかな~?って思って…近くまで来たからさ~…」
「じゃあ、店に入ればよかったのに~
まあ、俺はもう上がってたから、いなかったけどね~」
「な~んだ…そうなんだ…」
「でも、折角来たんだから、好きなケーキ選んでけよ!俺の奢りな♪」
「やった!たくさん選ぼう~♡」
「2個まで!」
「え~…」
………あ、すっかり忘れてた
ほのかの存在…
振り返ると、ほのかは俺が下ろした場所で動かずに、じっとこっちを見ていた
「ごめん…ほのか…おいで」
俺の側まで走ってきたほのかの肩を抱き、
「これ、店長の娘ちゃん、ほのかっていうんだ」
そう紹介した
すると翔は、ほのかの前にしゃがんで、目線を合わせてから、
「ほのかちゃん?初めまして、翔って言います、いつもじゅんが、お世話になってます」
「はあ~?お世話してるのは俺の方だから!」
「え~?どうかな~…」
「この人?じゅんの『世界で一番大切な人』って…」
えっ??
翔が驚いた顔で見てる
さて…どうしたもんかな?
ただの友達だよ、って言ってしまえば簡単だけど…
5歳児に、こういう世界もあるんだって…
今はそんなの、知らなくても…
理解できるとも思えないし…