第23章 Gravitation~引力~
俺は会社を辞めた
翔と一緒にいるために、会社を去ることに何の抵抗もなかった
聞かれたけど、理由は言わなかった
上層部に、『大切な人と日本で一緒に暮らしたいから』
って、そう談判してたら、
もしかしたら、日本勤務にしてくれたのかもしれない
だけど……
ずっと日本ということはないだろう
暫くするとまた、海外勤務になり、翔と離れなければならない…
そんなの、もう耐えられない
翔を失ってからの時間が、どんなに虚しいものだったか…
必死に勉強し、仕事に没頭するしか、
淋しさを紛らわす方法が分からなかった
結果、大学でも、会社でも、
認められ、評価された
だけど……
心に開いた穴を埋めることにはならなかった
会いたくて、会いたくて…
きっと、俺の中の潤も、翔の面影を追い続けていたんだと思う…
言葉ではうまく説明できないけど。
「おはようございま~す」
「ああ、おはよう!じゅんくん
早速だけど、頼まれてくれない~?」
「ハイ、なんでしょう?」
「ほのかを保育園に連れてって欲しいのよ」
「あ~、いいですよ」
「ごめんね~、じゅんくんと行くって聞かないのよ〜」
裏に回って、中庭で猫のマリンを構っているほのかに声をかけた
「ほのか、また我儘言ったのか~?」
彼女は俺の声にパッと振り返って嬉しそうに顔を輝かせた
「じゅ~ん!!待ってたの!」
「よし、行くぞ!」
店の自転車の後ろにほのかを乗せ、俺は10分ほどの保育園へ向けてペダルを踏んだ
背中の小さな恋人は、俺の背中にしがみ付いてきた
その小さくて可愛らしい手に、自然と笑顔になった
普通なら、俺にもこんな子がいてもおかしくないのにな…