第23章 Gravitation~引力~
時計を見ると、もう日を跨ごうとしていた
「…まさかな…待ってるはずなんか…」
この寒空だし、来るかどうか分からないのに、あんなところで…
待ってる…訳……
…………
俺は、大急ぎでカラオケボックスを出た
表通りでタクシーを拾って、この前Jと会った公園を告げた
いる訳ない…
こんな時間まで、Jが俺を待ってる訳ない
こんなことしたって、無駄足に決まってる
そう思う気持ちの裏で、
俺は『もしかしたら』って…
ドキドキしながら外の景色を見ている
そこに携帯に着信が…
「もしもし、風磨」
『兄貴~、どこ行ったんですか?』
「ごめん…ちょっと具合悪くて…」
咄嗟に嘘を吐いた
会計もしないで帰ってしまったことを詫びると、風磨は心配して、俺のマンションに来ると言う
それを大丈夫だからと断って、半ば強引に電話を切った
自分でも分からなかった
どうしてこんなことしてるのか
駆けつけた公園に、Jがいなかったら…
今度こそ俺は立ち直れないだろう
それなのに……
…大丈夫だ
たとえJがいなくても、俺は平気だ
だっているはずない…そう分かっているんだから
また、ひとりぼっちで月を見ることになっても…俺は平気だ…
俺は………
そういえば、満月から2日過ぎた月は、何て言うんだろう?
Jに聞いとけばよかった…
どうでもいいけど、外資系のコンサルで仕事をするJが、どうして宇宙飛行士並みに月に詳しいんだ?
……あ、宇宙飛行士とは、少し違うのか…
でも、あの後、『十六夜』って調べたら、源氏物語が出てきた
光源氏……
平安の色男は、もしかしたらJみたいに美しかったのか…?
Jならきっと…
「お客さん、この辺でいいですか?」
「あ…は、はい!!ここでいいです」
タクシーを降りた俺は、その先にある階段を見つめた
あれを下った先が、この間の公園だ
……俺は、大きく深呼吸してから、そこへと向かった