第23章 Gravitation~引力~
ゆっくりポケットから出してみると、それは名刺で、裏には携帯の電話番号が書いてあった
英語で書かれた名刺は、暗くて小さな文字が分かりにくいけど、中央に、
『Jun Matsumoto 』
と書いてあった…
『松本』…
潤は『大野』のはず…松本は、潤の母親の苗字だったかな…
それに、『Jun』と…
Jは『潤』と名乗っているのか?
そう言えば、さっきの彼女も『Jun』って呼んでいた
J……
今どこで…
何をして生きてるの?
どうして今、俺の前に現れたんだ…?
家について、改めて名刺を見ると、
表には、その筋の人間なら誰でも知っている、外資系のコンサルティング会社の名前が印刷されてあった
「…Manager…
こんな会社のマネージャーって、結構凄いんじゃないのかな~?」
名前の下にメールのアドレスや携帯の番号もしっかりと印字されている
ということは、裏の手書きは、個人的なものか…?
………
暫くその名刺を眺めていたけど、
そのままリビングにある引き出しに仕舞った
Jに、今更連絡してどうなる?
今、俺が、彼に対して、何の感情も持っていないんなら、『懐かしいな~、たまには飲もうぜ』と…
そう言って電話も出来ただろうけど…
無理だよ…
何年たっても、俺は頭の中から、潤を…Jの存在を追い出せないでいるんだ
身体だって……忘れちゃいない…
俺はこんななのに、もうJは……
引き出しをそっと締めて、
「元気で…J…」
そう、ひと言だけ呟いた
なんだか、二回目の惜別のようで、泣きそうになった