第23章 Gravitation~引力~
その晩、風磨を含め数人で飲みに出掛けた
一応俺の送別会ということらしく、風磨が企画してくれた
恵比寿にあるスペイン料理の店
「お前、お洒落なとこ知ってるな~」
「俺も友達から聞いたんすよ~♪
通りから離れるから、目立たないけど、
予約取りにくいらしいですよ!」
「へえ~…ありがとな~」
本場仕込みだという美味しい料理を食べ、
スペインの酒が妙に旨くて、少し飲み過ぎた
「兄貴、早く帰ってきてくださいね~!」
「全く、お前、翔さんの恋人かよ~」
「そういう先輩だって、淋しいくせに…」
「まあね~…、何ていっても、翔さんは俺たちのカリスマなんで…」
「ふふふ、増田~、嬉しい事言ってくれんじゃん!」
「翔さん、彼女いないんですか〜?
女子が騒いでますよ〜…櫻井くんって、付き合ってる人、いるのかなぁ?って」
「俺は仕事が恋人、かな?」
「かっけぇー♪♪」
色んな部署にいる、俺を慕ってくれる後輩たちと、気持ち良く飲んで、会はお開きになった
一番に俺をタクシーに乗せてくれ、みんなが見送ってくれた
あいつら、この後二次会でも行くのかな?
いいよな~、若いやつらは…
「はあ~…」
付き合ってる人なんかいなかった
そんな気になれないというのが理由なんだけど。
ホントに……
もうずっと、俺は………
信号待ちで止まったタクシーの窓から、ふと空を見上げると、
「あ…月…」
見れば、晴れた夜空に大きな月が輝いていた
「満月…なのかな?」
………
「あ、すみません、ここで降ります」
自分でも不思議だったけど、
俺は途中でタクシーを降りた
もしかしたら、
満月の引力に引き付けられたのかな?