第23章 Gravitation~引力~
【翔】
「兄貴~、こっちこっち!」
「いいけどさ~…その兄貴っていうの、外では止めろよ~」
風磨は、俺のボヤキなんか聞こえていないのか
食堂の席をキープして、得意気だ
エリートが多いこの環境の中、彼の存在は異質で、俺にとっては癒しだった
尤も、そんな彼の行動を気に止める者もいないから、風磨は気にせずに仕事でもプライベートでも俺を『兄貴』と呼んだ
「俺、食券買ってきますよ!兄貴、海老天蕎麦でいいですよね?」
「うん……あ、いや、今日はカレーにするよ…」
「え?カレーっすか?珍しいですね」
「うん…なんか、そんな気分なんだよね〜」
風磨は、甲斐甲斐しく俺の分も食券を買い、水を運んでくれた
俺は、その間に今朝方本国から届いた資料に目を通した
「はい、カレーです!コールスローは俺の奢りです」
「おお、いいの~?悪いね」
「いいんすよ~、兄貴が明後日からNYに行っちゃったら、俺一人でお昼食べないといけないし…」
そう唇を尖らせる後輩が可愛い
「行っちゃうっていっても、半年もすれば戻るよ~
それにさ、同期もいるだろ?」
「なんか、合わないんですよね~…難しい話ばっかだし」
「ははは、お前もそう言う話してやればいいだろ~?今度、何のプロジェクト立ち上げるんだっけ~?」
「俺は、仕事とプライベートはきっちり分けたい派なんすよ!ほら兄貴、食べましょ!」
ボストンの大学院を卒業した俺は、そのままアメリカで就職した
世界の各都市に支社がある企業で、あちこち飛び回って、夢中で仕事だけをした
そして数年後、日本勤務になり、久々に帰国し、そこに居たのが風磨だった
たまたま大学が一緒だったことが分かり、意気投合
おれを兄貴と慕ってくれる
「あ~あ、マジで、淋しくなっちゃいますね~」
風磨は、俺と同じカレーを頬張りながらそう言った