第21章 その先に見える景色
時が止まったままの空間を破ったのはJだった
「…もう、帰ろう…翔、駅まで送るよ」
「……J…」
Jは智くんに視線を移して、
「今夜はあなたがいるから、俺はいいのかな?」
そう自嘲的に笑った
すると、徐にJの前に進み出た智くんは
Jの手首を掴んで、
「一緒に帰ろう…」
そう言った
え……?一緒に、って…
Jが、智くんと、あの家に…
「……」
黙って智くんを見つめるJの視線は冷たくて…
俺は言葉を失った
見つめ合う…
いや、睨み合う…かな?
Jの視線を真っ直ぐに受け止め、智くんは少しも怯むことはなくて…
すると、先に反らせたのはJの方だった
「また、今度にするわ…」
吐き出すようにそう言いながら俺と智くんに背中を向けると、振り向くこともしないでVIProomを出て行ってしまった
残された俺と智くんは、Jが出て行ったドアをいつまでも見つめていた…
「帰るか…」
どの位そうしていたのか?
時間にしたらほんの少しなのかもしれないけど
「…うん…」
仲間が屯すボックスシートには、もうJの姿はなく、
俺たちは、そのまま店を出た。
ふたりで肩を並べて歩く渋谷の街…
下衆い冷やかしの言葉が飛んできたけど、
耳を掠めただけで、頭の中まで届かなかった
…………
初めて見せたJの…潤の本音…
『消えるべきは、俺』
Jがそんな風に思っていたなんて…
そんなの…そんなのさ…
悲し過ぎる
『もう、傷つかない』なんて言って笑ったJは、
傷だらけで、やっと立っているかのように見えた
翼を捥がれて、
飛べなくなった鳥のように…