第19章 冷酷な真実に…
道路は思いの外空いていて、
車は西湘バイアスを滑るように走る。
「綺麗ね~、海…ちょっと寄り道する~?」
「寄り道って、どこに~?」
「砂浜」
砂浜…って。親と二人で?
そう思ったけど、俺はハンドルをビーチに向けて切った。
「わあ~、まだ人がたくさん泳いでるね~
水着持ってくればよかったのかな?」
冗談でしょ…母さんと二人で海って…
想像できる範囲を逸脱…
「今、いい年して親と海で泳ぐなんて、冗談じゃないって…そう思ったでしょ?」
「えっ?いや…」
すると母さんは、防波堤に腰掛けて、
「そりゃそうよね~、こんなおばさんと泳いだって、何にも楽しい事なんかないよね~」
そう笑って脚をブラブラさせる母さんは、
逆光の中、一瞬少女のように見えた。
一瞬だよ?一瞬…
「潤は、一緒に海に行くような女の子、いないの?全然日に焼けてないけど」
「そんな人、いないよ…」
「ふ~ん…なんでかな?こんなカッコいいのにね…」
自分の息子捕まえて、カッコいいなんて…
母さんと、並んで腰かけて眺める海の眩しさに、目を細めた俺は、何だか頭の中がふわふわして、不思議な感覚だった…
もしかして…
こんな時間を、Jも、共有したいのかも…
そんな気がしていた…
『J…出てきていいんだよ…お前の身体、なんだから…』
心の中で何度呼びかけても、
Jが俺に変わることはなかった。
箱根の山道を登り、芦ノ湖を見下ろす高台に、一見して高級旅館と分かるそのホテルはあった。
品のいい中居さんに部屋に案内される。
「ご夫婦ですか~?」
「まさか~!息子よ、息子…」
彼女のお世辞に、母さんは嬉しそうに笑った。
「でもいいですね~、息子さんとご旅行なんて…
羨ましいです」
そう言われた母さんは、俺を見てにっこり微笑んだ。