第19章 冷酷な真実に…
「潤、もう出掛けるわよ~」
「はーい!!」
一泊分の小さな鞄を持って階段を下りて行くと、智が一緒にいた。
「これ…車の中で…」
そう言って智が手渡した紙袋には、
どこでも買えそうなお菓子の袋と、
ペットボトルが入っていた。
「飲み物、冷えてるから…」
「あ、ありがと…智も、今からでも…」
「俺、後輩と遊ぶ約束あるからさ…」
「へえ~…女の子?」
「えっ?ああ、まあね~…」
嘘ばっか…
女の子なんか、興味ないくせに。
今までだって、どれだけ振って来たか…
「お待たせ~、潤。智、後、お願いね」
「オッケ。楽しんで来てね~」
「うん…お土産買ってくるね?」
「んふふふ…待ってるよ…」
車に荷物を載せると、母さんは先に助手席に乗っていた。
今まで、こんな風に二人でどこかに出掛けるなんて、有ったかな~?
当たり前だけど、妙に距離が近くてドキドキしていると、
「潤と出掛けるなんて、2回目だよね~」
2回目?初めてじゃなかったのか…
「も~、忘れちゃったの?」
そう言いながら母さんが話す幼い頃の思い出…
家族で一緒に行くはずだったトミカ博。
前の晩に智が熱を出して、行けなくなって…
来場者に配る、会場限定のミニカーが欲しかった俺が、どうしても行きたいってごねて…
智をお隣の翔くんちに預けて、俺だけ連れてってくれたんだって…
「忘れちゃったの~?潤が我儘言うから…」
そう笑う母さんは、何となく急に小さくなったような気がした。
「覚えてるよ……覚えてる…」
母さんと二人っきりの記憶なんて、ほとんどない俺にとっての、大切な思い出……
トミカ博の事は、正直全く覚えてないけど、
手を引かれて電車に乗ったこと…
帰りに『智には内緒ね』と、デパートで食べたフルーツパフェ…
そのてっぺんに乗っていたいちごが、すっぱかったことも、はっきり覚えてる…
……なんだか、泣きそうだ、俺…