第19章 冷酷な真実に…
温泉のこと、知っているはずなのに、
智は何も言ってこなかった。
俺から話すのも、なんだか変な感じがして、
俺も何も言わなかった。
「智は何だって?」
母さんに聞いたら、
「気を付けていってきてだって」
と…
「何着て行こうかな~?天気どうなのかしら?」
気のせいかもしれないけど、母さんは何だか嬉しそうに、そわそわしているように見えた。
そうこうしているうちに、旅行の当日になった。
翔くんに温泉旅行に行くことを話した時、
実際ビックリした顔をしたけど、
『楽しんで来いよ』そう言った。
『お袋さんに甘えて来い』とも…
甘えるってさ…
この年になって、甘えるっておかしいでしょ?
って言うと、翔くんは、
『きっと、お袋さん、潤に甘えて、頼って欲しいって...そう思ってるよ』そう笑って、肩を叩いた。
東山先生から、俺の母親と今の親との話を聞いたとき、内心、凄い驚いたけど。
今まで他人よりも遠く感じていた母さんのこと、少し近くに感じたんだ。
誰にも言えないけど…
あの人も苦しんでたんだな…って…
そう思ったら、少し見る目が違ってきて、
それと同じくして母さんの態度も変わっていった。
そして今度の温泉旅行の誘い。
昔なら考えられなかったし、警戒しただろうけど。
俺からも歩み寄りたいって…
そう思ったんだ。
今まで生きてきた時間を取り戻すことは出来なくても、きっと近付くことは出来る…
しなきゃいけないって…
そう思った。
そうやって自分が変わって、母さんも変わっていったとしたら。俺は…どうなるのかな?
先は見えない。
でも、進みたいって、そう思うんだ。
翔くんは不安そうだけど。
俺は、自分の運命を全て、受け入れたいって、
今、そう思っているから。