第19章 冷酷な真実に…
【潤】
急に母親が温泉に行かないかと誘ってきた。
驚いて、始めは馬鹿みたいに口を開けて固まってた。
「…ねえ…誘ってるのに~…もう予約しちゃったからね。行くでしょ?」
「…あ、ああ…いいけど、智も空いてるって?その日」
「智は行かないよ?」
「え…行かないって…じゃ、誰が行くの?」
母さんは、少し困ったように目を反らせて、
「潤と二人だけよ…たまにはいいじゃない?」
たまには、って……
そんなの今まで一度だってないし。
親父は単身赴任だから、仕方ないとして。
智と3人ならまだしも…
ふたりって……
戸惑いを前面に押し出す俺に、母親は言いにくそうに目を反らせてから、
「今までずっと、潤とちゃんと話したいって、そう思ってたの…家にいたんじゃ、なかなか切欠が無くて。
ふたりで浴衣で向かい合って、ビールでも飲んだら、話せるんじゃないかな~…って、そう思ってね」
浴衣で、ビールって……
「大丈夫よ?混浴入ろうなんて言わないから…」
そう笑った母親に、俺は言葉が出なかった。
混浴っていうWordもまず笑えないし、
冗談にしてはシュール過ぎるって…
本人は分かっちゃいないみたいだし。
「行くよね?智には留守番しててもらうから」
「智も連れてけばいいじゃん」
「無理よ~、もう二人って予約しちゃったから
潤、運転してってね」
「あ、うん…いいけど…」
母さんは、ビックリ顔の俺を置いて、
部屋を出て行ってしまった。
なんなんだよ?
どう捉えたらいいのか分からないけど。
母さん…なんか照れてた。
それに、ちょっと嬉しそうだった…
そんな母親が出て行ったドアを見ながら、
俺は、自然と笑顔になっていたこと
自分では、気付かなかった。