第19章 冷酷な真実に…
神楽坂の階段を、二人で手を繋いで登る。
前から歩いて来た男性とぶつかりそうになった。
「あっ」
「あ、すみませ…」
「あ…」
「あなた、あの時の?」
それは、いつかここで白い犬を追いかけていた獣医さんだった。
「どうも~」
彼は白い歯を見せてにっこり笑った。
「今日は猫ちゃんなんですね~?」
「え?ああ、この子、オギっていいます」
「オギ?可愛いですね」
「でしょ~?今日は…あっ///」
オギが先生の手をすり抜けて階段に下り、
そのまま下って行ってしまったので、
先生は慌てて、
「じゃあ、また。帰りに寄ってください。
美味しいコーヒー入れますよ…では…オギ~、ちょっと待ってって!」
先生は、ふわふわの髪の毛をなびかせて行ってしまった。
「あの人、いつも忙しそうだな~」
「……」
「行こっか」
潤の不安が、手の平を通して俺にも伝わる…
潤……
俺が守ってやるから。
だから…
「こんにちは~」
クリニックのドアを開けると、受付には東山先生がいて、
「おお、いらっしゃい、待ってたよ~」
そう笑顔で迎えてくれた。
「今日も受付の人休みですか~?」
「うん…午後は子どもの参観日なんだって~」
「…参観日か…それなら仕方ないですね」
「…潤くん、こんにちは~」
「…こんにちは…」
先生は潤の顔を見て、一瞬眉を上げたけど、潤には何も言わず、俺に向かって、
「じゃ、用意するから、待ち合いで待ってて」
と言った。
待合室の椅子にくっ付いて座っている間も、
潤はキュッと唇を結んだまま何も言わない。
俺は黙って彼の肩を抱き寄せた。
気にするべき他のお客さんはいない……
大丈夫なのかな、ホントに…
「入って~」
ドアを開けて顔を出した先生が白い歯を見せた。