第19章 冷酷な真実に…
【翔】
「潤、今呼びに行こうと思ってたんだよ~」
家を出るとそこに、潤の姿があった。
俺を待っていたのか?
迎えに行くと約束していたのに…
「…潤…どうしたの?」
「なんで?どうもしないよ…用意が出来たから、出てきただけだよ。行こう…」
「…うん…」
潤の様子がいつもと違うこと、
顔を見た瞬間から気付いていた。
『ほほえみクリニック』へ行くのは初めてじゃないけど、今日はJが……
Jに話を聞きたいと東山先生に言われ、
潤もそのつもりでいるから…
だから不安なのだろう。
潤はJのことを知らない…
Jは潤の全てを知っているのに。
はたしてJはちゃんと出てきてくれるのか?
東山先生に何を語るのか?
俺まで不安な顔をしていたら、
潤が余計に心配するから……
「潤、帰りにたい焼き、奢ってやるよ!」
「たい焼き~?」
「うん、この間旨い店見つけたんだ~」
「…うん…」
俯いて唇を噛みしめる潤…
俺は精一杯、彼の気持ちに寄り添いたくて、
そっと手を握った。
「翔くん」
慌てて周りを見回す潤。
家の近くでこんなことをするのは、
今までなかったことだからだろう…
「誰かに見られる…」
「いいから」
「でも…」
「いいんだ」
俺たちは駅までの道を、手を繋いで歩いた。
すれ違った女子高生が、慌てて振り返った以外は、気にする人もいなかった…
街は、いつもと同じ色…
同じ匂い…
何も変わらない……
だから、俺は潤が怯える、
ホントの不安に気付かない
もしも未来に、タイムマシンがあって、
過去に戻れるとしたら……
俺はこの日の朝に戻るのだろうか?
………意味のない事なんか何もない…
前を向くしかない
進むしかない…
そうだろう??
だってもう真実に向かって、
潤と二人、歩き始めてしまったんだから……