第18章 amends ~償い~
目を覚ましているはずなのに、
おばさんはそう言って東山先生の腕を掴んだ。
「そうでしたか…美穂さんは、本当に優しい人です…優しさ故に、今まで苦しんできた…
自分を責めて来たんですね?
あなたは何も悪くない…
ただ自分に素直だっただけだ…
だからもう、自分を責めないで…」
先生は、顔を両手で覆って泣くおばさんの背中を、
優しく撫でていた。
……潤の家族のゆがみが…
俺の知らなかった闇が、分かった気がした。
何も知らないから、
俺はあの家でも、楽しく家族のように過ごせたんだろう…
こんな形で、潤やおばさんの本音を聞いてしまった俺は…
この現場を見守っていた俺には…
いったい何が出来るんだろう?
こんな非力な俺が…
家族のねじれを、解くことが、できるなんて、
到底思っちゃいない…だったら…
病院からの帰り道、
先を歩く俺の後を、少し距離を置いてついてくるおばさんは、俯いて肩を落としていた。
駅に着く少し前に、小さなたい焼き屋さんを見つけた俺は、勝手に二つ買って、その一つをおばさんに差し出した。
「食べましょう!」
そう無理やり押し付けてから、店先にあった小さなベンチに腰掛けた。
暫く躊躇っていたおばさんも、俺の隣に腰を下ろして、小さな声で、
「ありがと、翔くん…」
と言った。
「あ、うんめっ///」
あんこが甘すぎなくていい、とか、皮がパリパリだ、
とか、俺は一人で喋っていた。
二人とも食べ終わってから、
「潤を、あの家の子にしてくれたから、俺は潤に会えたんだって…そう思う…だから、ありがとうって…心から言いたいです…
上手く言えないけど……」
そう言って立ち上がった。
「翔くん……」
何か言いたげなおばさんを制するように、
「晩御飯のおかず買ってく~?なら、荷物持ち、するから♪」
そう笑った。
すると、彼女も、
「じゃあ、油とお醤油買っちゃおうかな~?」
と笑ってくれた。