第17章 その葛藤の先に
「お母さんには?どう思ってた?」
「ぼくは自分の子どもじゃないのに…
家に置いてくれて、智の兄弟にしてくれて、
……ぼくは、他に行くところもないし、
お母さんに嫌われないように…って…」
潤の口調が、明らかに変わった。
何ていうか……幼い子どもみたいに……
「そうか〜、偉かったね。潤くん。
お母さんに嫌われないために、
潤くんは何を頑張ったの?」
東山先生の言葉も、
潤の変化に合わせて変わってきた。
優しく……子どもに語りかけるように…
「ぼく、勉強を頑張ったんだ。
ママに誉めてもらいたくて…
でも、ママは、ぼくの100点の算数より、
智の95点の国語をいっぱい誉めて……」
「そっかぁ。潤くんは頑張ったのにな〜
ママにたくさん誉めてほしかったのにな〜…」
「後はね、学校から帰ったらね?
智がいちごのいっぱいのったケーキを食べてて、『ぼくのは?』ってママに聞いたら、
冷蔵庫からシュークリームを出してくれて。
ぼくも智と同じやつがよかったのに!
ママは『二個だけ貰ったから、ごめんね〜』って……
智は『半分食べる?』って言ったけど、
ぼく……ぼく…悲しくて、悲しくて、
シュークリームもいらないって、
そう言って家を飛び出したんだ……
ママは……ママはいつだって智が…智のことが」
「潤くん、分かったよ…君の気持ちは、先生はよく分かった。
ちょっと落ち着こうか?」
先生は、そう言って潤の肩を撫でながら、
寝ていた椅子をゆっくり起こした。
目を開けた潤は、息を整えるように、
大きく深呼吸して、また目を閉じた。
今のは………俺が今見たのは、
子どもの頃の潤なの?
「潤くん、今日はこのくらいにしておこうか?」
「えっ、でも…」
「長い時間をかけて拗れた糸は、ゆっくりと、時間をかけて解いていくんだ…
焦ったら余計に結び目は硬くなるだろ?」
「…はい…分かりました」
潤は素直に頷いた。