第17章 その葛藤の先に
「ハイ。今日はミルク買っておいたよ」
先生は、そう言って、翔くんにコーヒーを出した。
「潤くんも、ミルクだけ?」
「あ、はい…そうです」
「だと思った♪ハイ、どうぞ…」
どうして俺がミルクだけって分かったのかな??
不思議な気がして、コーヒーの、いい香りのするカップを見ていると、
「知らず知らずに、好きな人の真似をして、いつしかそれが、自分の好みになっていく…」
「…えっ??」
何…この人…?
「それを『ミラーリング』というんだ。
好きだから、相手に気に入られたいから、と、
好きな相手の好みや仕草を真似をしているうちに、いつしか自分のくせとなり、好みとなる。
『似たもの夫婦』っていうのは正にそれだね~」
「はあ……」
「先生、それよりも、潤のこと、診ていただけるんですよね?」
「まあまあ、慌てなさんなって…
こんな、どうでもいい話を、
潤くんがどれほど耳を傾けてくれるかで、治療のアプローチも変わって来るんだよ、翔くん…」
……この先生、見た目よりも、優秀なのかも?
あ、そんなの失礼か…
そう思って翔くんをチラッと見ると、
俺と同じ顔して先生を見てた。
……ほんとだ。
考えてること、自分の思考として感じるくらい、
俺と翔くんって、似てる……
それがなんか、嬉しい…
例えそれが、俺が真似した結果、
似てしまったんだとしても……
「さて、コーヒーも飲み終えたし、
ゆっくり話を聞かせて貰おうかな?」
「はい……」
「よろしくお願いします」
ドアを開けたまま、先生が俺と翔くんを診察室に招き入れた。
妙に緊張しているせいか、
入り口で固まって動かない俺に、
「潤くん、怖がることはないよ?
知ってることと、思ったことだけを
素直に話してくれればいいんだ。
知らないことまで、
君から聞き出すつもりはないからね」
「…はい…」
先生の、穏やかで優しい物言いが、
俺の気持ちを落ち着かせてくれた。