第17章 その葛藤の先に
「…潤…」
「翔くん……あの…」
何を…
何から、どんなふうに話したらいい?
翔くんは、俺から何を聞きたいの?
明らかに戸惑っている俺に、翔くんは、
「潤…言いにくいなら俺から言うよ?いい?」
「………」
翔くんは俺の肩をそっと抱き寄せ、
ベッドに並んで腰かけた。
「単刀直入に言うよ?
潤は、自分に記憶がないときがあるって、
そう感じたこと、ない??」
驚いた。
翔くんが、気付いてたなんて…
俺の秘密に…
自分自身でも知らない、
俺が感じている、違和感…
「……しょう、くん…それって…」
「潤、俺渋谷のある店で、Jと呼ばれる男に出会った…彼は、潤とうり二つだった」
「うり…ふた、つ…?」
「つまりさ、それって潤、お前だって…そう思ったんだ。」
「……J…?……俺が?」
「全然分かんない?」
「…俺が……J……」
バイトに行った時、遅くなるときは終電もないから、そのまま泊まることもあったけど。
正直、そんな日は夕方くらいからの記憶がないんだ…
忙しすぎて忘れた、とか?
そんな無理矢理な言い訳付けて、自分の疑惑を打ち消していたけど。
こんなはずないんだ……
だから、知るのが怖かった。
本当は、その空白の間に、
俺は何をしているのか?
俺自身が解らない……
何か秘密があるんじゃないのか?
『記憶がない』
それほどの恐怖って、他にはない…
自分が自分であって、
自分じゃない………
そんな感覚。
目を反らせ続けてきた真実に、
翔くんが……
何よりも大切で、
誰よりも愛しい人……
「潤……気付いて、いるよね?」
俺の心の奥底までをも見透かすような、
強い意思をもった瞳……
「翔くん……俺……」
そこまで言ったら、
不意に予期せぬ涙がこみ上げた。