第17章 その葛藤の先に
「えっと~…この辺かな~?」
俺はこの日、大学の講義が休講になったので、ひとりで神楽坂に来ていた。
携帯のナビを頼りに目的地まで歩く。
都心とはいえ、表通りからは少し…いや結構入った裏通りになると、古くからの民家がひしめき合うように立ち並び……静かな佇まいだった。
「これ、最寄り駅、ホントに神楽坂かな~?」
ぶつぶつ言いながら歩くこと20分…
「ここか…」
坂の石段を登ったその先に、
『ほほえみメンタルヘルスクリニック』
少し剥げかけた木製の看板を見つけた。
名前のわりに…なんだかレトロだな~…
逆に今はこういうのがウケるのかも。
入り口のドアを開けて中に入ると、直ぐに受付で…
昔ながらの小窓式の受付から顔を出したのは、イケメンのおじさん…
「こんにちは~」
爽やかに笑った彼につい見惚れていると、
「どうしました?受診でいいですか?」
と、聞かれてしまった。
「あ、いえ、受診というか…あの…櫻井翔といいますが…えっと…」
「あ~あ~あ~!君か!!待ってたよ!」
「えっ??」
「さあ、診察室に入って!」
爽やかおじさんは、俺の先に立って診察室らしき部屋に入っていった。
こういう病院って、なんだか、普通の家みたいなんだな~…
通された部屋には、奥に病院っぽいデスクなどがあるけど、真ん中には丸テーブルと椅子が並んでいて…
普通の家庭の客間のようだった。
「さ、座って!今、コーヒー入れるよ、あ、翔くん、コーヒーは?」
「はい、大丈夫です…できればミルクを…」
「ミルクね~、はいはい…」
部屋は古い感じだけど、綺麗に掃除が為されていて、壁には田舎の風景画がかかっていた。
出窓には、観葉植物なのかな?
緑がたくさん置いてあり、午後の光を集めてキラキラしていた。
落ち着ける空間って、こういうことなのかな?