第17章 その葛藤の先に
何度か来るうちに、Jは自分の事をいずみさんに話すようになってきた。
それまでは時々しか出てこなかったJの人格が、いずみさんと出会った雨の日以降、
頻繁になり、コントロールしにくかったJになるときが、徐々にJの意思でできるようになってきた。
それを聞いた俺は、
胸が押しつぶされそうになった。
「翔くん、潤くんが家庭の中でどんな存在だったのか、聞いたことある?」
「あ~…、潤は、親父さんの愛人の子どもで、その人が亡くなったから引き取ったって…
でも、それを聞いたのは後からでした。
そのくらい、潤の家族は自然だった…潤も、ちゃんと大切にされて…」
「本当に、そうかしら?」
「えっ??」
「もし仮に、翔くんの目に、潤くんが幸せそうに映っていたんだとしたのなら……
それこそが、Jが現れた要因よ」
「Jが…現れた…」
………そう言われて見ると、思い当たる節もある。
おばさんの、潤に対する……
「あるでしょ?違和感…他人の翔くんでさえ感じたこと…潤くんが感じない訳はない…」
潤は……あの家の中で、ずっと一人で苦しんでいたっていうのか?
それで、俺に…
兄である智くんよりも、俺に懐いて、頼ってきていたのは、そのせいなのか?
「家族の中に自分の居場所はない…自分が心から信じられるのは翔くんだけだった…Jはそう言っていたのよ?」
身体が……震えた。
潤のことはちゃんと愛してた。
今もその気持ちは変わらない……
なのに……
俺は潤を裏切った。
俺のことを信じていた潤を…
俺が……潤を壊した。
膝がガクガクとして、喉が詰まった。
俺のせいで……
俺が…
その時、テーブルの上に俺の手を、いずみさんが強く握った。