第17章 その葛藤の先に
後になって分かるのだが、その変化は、Jだった人格が、潤に戻ったということだったんだ。
潤は、どうして自分がそんな場所にいるのか、全く覚えてはいなかった。
いずみさんを見る目もどこか怯えていて…
「ホントに、私が勝手に若い子さらって来たって、そんな目で見てたわよ…」
彼女は、当時を思い出したように可笑しそうに笑った。
その後、潤は一日のほとんどを眠っていて、病院に行くことも出来ず、
いずみさんも仕事の合間にマンションを覗いて、買って来たおにぎりやサンドイッチを置いて行ったという。
そして3日後、
再び潤の中にJが現れた。
Jは病院には行かないとはっきり言った。
そして、いつまでも世話になっている訳にはいかないから、家に帰ると…
いずみさんも、それは構わないし、
ずっと居られても困る訳で。
潤と違って、Jは自分がどんな症状なのかを分かっていて、その上で受診を拒んだ。
Jになった時は今までどうしていたのかと聞くと、
街の中を彷徨っていたり、裏路地のclubにも行っていた。
金もないから、適当に声を掛けてきた年上の女性について行って、お金を貰ってそういう事もしてたみたい。
「それって買春よ?」
「…知ってる…だけど、潤がバイトで稼いだお金は使えない…」
家に帰りたくないというJに、
いずみさんは山小屋での住み込みのバイトを紹介した。
なんでも、彼女が学生の時にやっていたらしく、雲の上の山小屋で生活し、大自然の素晴らしさに触れることが、人間の価値観を変えてくれた。
そして潤は八ヶ岳の山小屋へ……
「2週間後、山から帰ってきたJは、少し変わっていて、私に礼を言って出て行こうとしたの。
だから、辛くなったら来ていいから、ってそう言って合鍵を渡したのよ。
それからかな~…Jのときにここに来るようになったのは…」
そう笑ういずみさんの横顔は、
なんだか子どものことを話す母親のようだった。