第17章 その葛藤の先に
いずみさんは顧客の店で食事をし、
家に帰ろうと車を停めた駐車場へと向かった。
その途中、歩道の縁石に腰掛けて項垂れる少年がいた。
その日は、午後から土砂降りの雨が降っていて、夜遅くになって上がった日で…
『こんな時間に?』
時計の針は夜の11時を回っていて、
ひとりでそんなところに座っているのが気になった。
それでも、まるっきり子どもって訳でもなさそうだから、酔いを冷ましているのか、
それとも彼女にでも振られたのか、
『若いうちはまあ、いろいろあるわよ』
そう思って一回は通り過ぎた。
でも、どうしても気になったいずみさんは、駐車場から車を出して、再びそこを通り、声を掛けた。
『ねえ、君、大丈夫~?』
すると、顔を上げたJが泣き腫らした顔をしていて…
着ている服はぐっしょりと濡れていた。
いったいいつからそこに居たのか?
いずみさんは思わず、
『よかったら乗りなさいよ』
と言っていたという。
「何年前の話ですか?」
「1年半くらい前の夏よ」
1年半///
あの日だ。
土砂降りの雨の夜……
俺と智くんが潤の留守に……
そして、いずみさんは自分のマンションに、ずぶ濡れの少年を連れて行った。
「そのまま放って置いたら、死んでしまうんじゃないかって、そう思ったの…そんな顔してたからね~
でも、誘拐にでもなったら、弁護士資格剥奪どころか、逮捕だったよね~…
私もずいぶん思い切ったことしたわよ」
いずみさんは、その時のことを懐かしむように笑った。
それから、Jは熱を出し、いずみさんはJを病院に連れて行った。
その時、診察した医師に、
『精神科を受診した方がいい』
と勧められたとのこと。
受診したJの受け答えが普通じゃなかったから…
確かに、仕事が忙しくて翌日は夜になって、漸く顔を会わすと、
車に乗せた時とは、別人のような表情や言葉遣いに変わっていた。