第16章 turning point~転機~
「俺はそれを知ったとき、驚いたけど、内心、ああ、それでなんだ…そう思ったんだ」
「気付いてたってこと?」
「子どもながらに、なんとなくね…」
潤は美穂さんに嫌われないように、
自分の居場所がなくならないように、
褒められようと一生懸命だった。
それが潤にとって、かなり無理をしていたことで…
我儘も言わない、
自己主張もしない、
やりたいことも我慢して、
イイ子だって、そう言われるように、
いつも笑顔で…
我慢して我慢して……
そして、そんなある日…
酔って帰って来た美穂さんに言われた。
『あなたの顔を見てると、のり子のこと思い出して辛い』
って…
潤がどんどん本当の母親に似てくるから。
「それまで、俺が大切に築き上げてきたものが、一瞬にして崩れ去った瞬間だったよ」
Jはそう言って自嘲的に笑った。
「翔…解離性同一障害って聞いたことある?」
「解離、性…?」
「多重人格って言えばわかるかな~?」
「多重…人格…」
自分を殺して生きていくということが、
潤に別の人格を作らせた。
「それがJなの?」
「まあ、そう、かな?」
「潤はJの存在を知らないけど、俺は潤がしていることも記憶にある…」
記憶に…じゃあ、Jは最初っから俺のこと……
「分かってたよ?Asteriskに翔が来た時から…
正直びっくりしたけどね…
雅紀が自慢する優秀な友達が翔だったなんて…」
じゃあ……俺が、潤を抱いてる時も……
「いつも知ってる訳でもない…俺だって寝ている時もあるから…潤の中でね…」
「……潤、俺に何が出来る?」
「今は潤じゃない…だから、そう呼ばれても違和感しかないんだ…」
「あ、ごめんっ…」
俺は……Jと潤の秘密を知ってしまった俺は、
どうしたらいい?
何が出来る??
「J……」
気が付いたら俺は、Jを抱き締めていた。
別の人格を作らなけば生きてこれなかった潤の…
潤の気持ちを思うと、胸が押しつぶされそうだった。