第16章 turning point~転機~
「いずみさん、部屋借りるよ?」
「飲み物、適当に出してっていいわよ」
「サンキュ~♪」
Jは、冷蔵庫を開け、中から炭酸を2本出してから俺を振り返り、
「行こうか」
と言った。その顔が、いつもJが俺に向けるものとは全く違っていた。
Jが招いてくれた部屋は、さっき見たリビングに比べて質素で、シングルベッドが一つ、あるだけだった。
「さてっと。何から話そうか?」
ベッドの上に胡座をかいたJは、少し優しく笑った。
…いつものJだ。
俺は少しほっとして、ベッドの脇に腰を下ろした。
「はい、どうぞ…」
Jはよく冷えた炭酸のペットボトルを俺にくれた。
「あのさ…Jは潤、なんだよね?」
まず聞かなきゃいけない事はそこだ。
Jははっきりそうだと認めてくれたら…
話はそっからだ…
視線が絡み合う……
「正確には俺は、潤じゃない…」
「えっ??」
「翔だって知ってるでしょ?俺がJだって…」
「…だけど……」
Jはペットボトルのキャップを弾き、
炭酸を喉に流し込んだ。
綺麗な喉仏がゆっくりと上下する…
「俺はさ、今の家ではあぶれ者なんだ」
「そんなこと…」
「いいから、聞けって!」
そう言ってJはゆっくりと話し始めた。
潤の母親のり子さんと、智の母親美穂さんは高校の同級生で、同じ人を好きで取り合った仲だ。
その人が二人の今の親父さんの博さん。
結局、美穂さんが博さんと結婚し、智が生まれた。
でも、その後も美穂さんに内緒でのり子さんとも続いてて…そして潤が生まれた。
博さんはそれを内緒にしていたけど、のり子さんが癌で亡くなってしまい、
潤が一人にしておけないから、美穂さんに打ち明けて潤を引き取ることにした。
そう言ってしまえば簡単だけど、
そこにはかなりの修羅場もあったらしい…
それは仕方ない事だろう。