第16章 turning point~転機~
【翔】
『潤……』
何度もそう呼びかけたら、Jはゆっくりと振り返って、俺に向かって言った。
『やっと気づいたんだ…』
少し口元だけを歪めて笑ったその顔からは、
Jの心の中は見えなくて…
「何で?どうしてJになってたの?」
「なってた??」
「だって…潤、なんでしょ?Jは…」
Jは感情のないビー玉みたいな目で俺を見つめてから、
「…場所、変えよっか?」
と言った。
その声も、言い方も、
そして表情もJのまま……
「…うん…」
先に立って歩くJの後ろをついてAsteriskを出た。
いつもは雅紀たちと話してから出るんだけど、
今日の俺は、彼等の存在すら頭から抜け落ちていて…この後、Jの秘密が…
そう思っただけで、鼓動が早くなるのが分かった。
通りに出て、タクシーを拾って乗り込んだ。
「どこ行くの?」
運転手に行き先を告げたJに聞くと、Jは、
「ゆっくり話せるとこ…」
とだけ答え、窓から見える街の灯りを見つめていた。
……綺麗な横顔…
少し寂し気なその顔は、潤と重なった。
渋谷の煌びやかなネオン街を離れ、
車は井の頭通りをひた走り、
杉並区辺りなのかな?
一棟のマンションの前で止まった。
「下りて」
Jに言われタクシーを降りた。
ここはいったい…??
Jは迷わずにそのマンションの一室の番号を押すと、ロックが解除された。
どうして??潤が、こんな…
もう訳が分らなかった。
元々、Jと潤が同一人物なのに俺のこと、知らない振りをしていることが、既に謎でしかないんだけど…
10階のある部屋の前でチャイムを押し、鍵を開けた。
「入って…」
「…J…ここは…?」
「いいから入って」
Jが強引に俺を中に入れると、後ろでオートロックがかかった。すると中から、
「J~?帰ったの~?」
女性の声がした。