第16章 turning point~転機~
【雅紀】
あの晩。
翔を滅茶苦茶にしてやるつもりだった。
心も身体も、
壊してやろうと思っていた。
それなのに……
俺の、クソみたいな生い立ちを聞いた翔が、
俺の癒しになろうとした。
普通なら、『ふざけるな!』『お前に何が分かる』って…憎しみを募らせても当たり前なのに…
どうしてだろう…?
『雅紀は、強いと思う』
『俺が、雅紀の癒しになる』
『雅紀の傷を、温める』
翔の言葉が、俺のささくれだった心の傷に、
不思議な温度で染み込んでいった。
傷付けてやるつもりだったはずの彼と、
いつしか夢中で交わっていた。
俺が与える刺激に…
欲望をぶつけるようなセックスに、
翔は素直に応え、甘い声で鳴き、
そして俺を何度も求めてくれた。
……分かってる。
翔は俺に同情しただけだ。
愛してくれたわけじゃ無い…
だけど、あの瞬間…
抱き合ったあの時だけは、
翔と熱を分け合うことが、俺の心のわだかまりを、
少しずつ解してくれた。
これまで、世の中を悲観し、諦めてきた俺の心に、
小さな灯りをともしてくれた…
だけど…そんな自分に…
気付いてはいても、
どうしたらいいのか分からないでいた。
翔に心が移った訳じゃない……
あの時間が、俺にとってこの先、
どんな意味を持って行くのか、
はっきりとは見えないけど。
今ある幸せを、大切にしていくのも
悪くないんじゃないか…って…
そんな簡単なことに気付けた…
そんな気がしている。
毎日が24時間不幸だったわけでもないかな?
って……
そう思えたことが、何よりも尊い。
塾の子どもたちと接するとき、
『先生』と呼んで信頼し、慕ってくれること。
成績が上がって、一緒に抱き合って喜んだ。
そんな俺は嘘じゃない…
『雅紀先生のお陰だよ』
キラキラした目で、そう言って貰って、
自分の事みたいに嬉しくて……