第14章 desire〜欲望〜
【ニノ】
いつもよりもバイトが長引いてしまい、
Asteriskについたのは10時を回っていた。
雅紀はもう来てるかな?
……J、は……
「ニノ~、遅いじゃん、今日」
「おう…」
声を掛けてくる連中を軽くあしらい、
フロアの奥へと進んでいく。
いつもの一角に、いつもの顔ぶれが屯ろし、
雅紀も俯いて座っていた。
「……」
俺に気付いたけど、雅紀はまた力ない目で俯いてしまった。
何とか奥まで行き、雅紀に話し掛けた。
「何、お通夜みたいな顔してんだよ…
えっと、Jは?…まだ来てないのかな…」
「VIPに…翔と二人で…」
「あ、そ…」
「…俺も今日、さっき来たとこなんだ…」
「ふ~ん…ビール!」
注文を聞きに来てくれたウエイターにドリンクを頼む。
「雅紀は?」
「…俺は、いいや…」
まあ、この頃はいつもの事だ。
Jが翔を連れて二人でVIPに行くようになって。
俺たちがいても二人で行くんだ。
だから、別にそんなに驚くことでも……
「…入ったの、8時前、だって」
「8時?」
時計を見ると10時半を回っている。
3時間になるじゃん!
翔とVIPに行っても、1時間半もすれば出て来た。
いつもは、だ……
今夜はその倍…
明らかに長すぎる。
中で、何してるんだ?
「雅紀とニノも、来てたんだ…
今夜はこないかと思ってた」
不意に、Jの声がして、俺たちは弾かれたように声のした方を仰ぎ見た。
「しょう……」
雅紀が息を飲むのが分かった。
俺も……
Jの後ろに少し隠れる様に登場した翔…
………
…………
翔を纏う空気が変わった。
隠しようがない、色香……
……翔は、
翔とJは……
遂に一線を越えたんだ。
雅紀は、言葉もないまま、二人を呆然と見つめていた。