第13章 encounter〜出会い〜
「雅紀、終電間に合うよね?帰る~?」
翔は屈託なく雅紀の側に行って話し掛けた。
「えっ?あ、う、うん…そうだね…」
雅紀も当然、翔がそんな輝く笑顔でいられる意味を承知している。
動揺を隠せないのは、
想像していなかった事態を、
目の前に突き付けられたから…
どう処理していいのか分からないんだ…
この店は、表向きは普通のclubだけど、
奥の部屋…
『VIProom』と呼ばれるいる個室は、
ゆっくり中で飲むことが出来る部屋ってことになっているけど…
実は、中で何をしていても、ロックがかかるから分からない。
実際、VIPを使う奴等は、ほぼ中でいかがわしいことしてるんだ。
そこをつかえる奴も限られたお得意様だけだから。
で、俺はJと雅紀と、これまで何度も、
VIPでいかがわしい行為をしていた。
だけど、翔は……
……翔は、Jと何時間も
そんな部屋に二人っきりでいて、
何もしなかった…
当たり前だけど、
ここではそれは当たり前じゃないんだ。
Jに下心がなかったのか??
俺はそっとJの表情を盗み見た。
Jは…今まで見たことも無いような、
優しい穏やかな顔で、雅紀と話をする翔を見ていた。
それが、全ての答えだ。
Jは、翔に手を出さなかった。
あんな目で、見つめる人なのに、だ…
答えは出た。
Jは、翔のことを特別に思っている。
そして、大切に…
翔を大切にしているんだ。
………雅紀、太刀打ちできるのかな?
これって……
俺たちでどうこうできるもんじゃない…
Jと翔と3人で話す雅紀は、
気のせいか、少し蒼ざめて見えた。
「行こうか、翔…」
翔と駅へ行こうとする雅紀にJが声を掛けた。
「俺も送っていくよ」
雅紀はJを見つめたまま、何も言わなかった。