第13章 encounter〜出会い〜
【和也】
悲壮感漂う顔で、雅紀は深くシートに座り直した。
全くさ……
少しはポーカーフェイスも覚えろっつ~の。
今にも泣き出しそうな…
母親に置いてかれた子どもみたいな、
おまえがそんな顔してたら、
俺が一緒になって泣きそうな顔なんか、
出来やしないよ……
俺だって……
今二人が何してるんだろうって、
そう思うと、いい気がする訳ない。
今頃Jが、あいつを鳴かせてるんだって…
そう思っただけで、胸が締め付けられる……
雅紀と同じで、今の俺にだって、
Jだけだったんだから…
俺を闇の世界から引き揚げてくれたJ…
こんなことなら、『好きだ』って、
『俺にはJだけなんだよ』って…
素直にそう言ってしまえばよかった。
………まあ、今となっては、既に遅いのかもしれないけどね…
俺は、雅紀とそのまま踊るわけでもなく、
他の仲間と適当に話しながら時間を潰し、
Jが出てくるのを待った。
時間だけが、過ぎていく…
もう、そろそろ終電が…そう思って
時計を気にし始めたとき、
Jが翔とVIPを出て来た。
俺らだけじゃなくて、その辺に居たやつらが、
みんな二人に注目した。
そんなこととは知らない翔は、
明るい笑顔で雅紀に声を掛けた。
「お待たせ…待っててくれたの?ありがと……」
………
やられた……
翔はJと、何もシテナイ…
こんなに長い時間、二人っきりであの部屋に居て、
Jは翔に手を出さなかったんだ…
翔の爽やか過ぎる笑顔には、
今まで男に抱かれて来た色香は微塵もなくて。
その事実が逆に俺と雅紀を打ちのめした。
そこに居た誰もが、当然、Jと二人で消えた翔が、上気した艶めく雰囲気を纏って再登場するとばかり思っていた。
そうじゃなかったことの方が、
衝撃だってこと、
俺たちは、この瞬間に知ることになった。