第13章 encounter〜出会い〜
開店間もないせいか、いつも人がひしめき合っている店のフロアは、やや閑散としていた。
「雅紀~、今日は早いじゃん!バイト?」
馴染みの客が声を掛けて来た。
「いや、今日は遊びの方」
「ふ~ん、ニノも来てたよ~」
そいつが顎でしゃくったシートには、
ニノが座って携帯を弄っていた。
もう来てたのか?
俺と翔に気付くと、顔を上げたニノは、
「おう」
とだけ言って、また携帯でのゲームを続けた。
顔を上げたその一瞬、俺の隣の翔をチラッと見たけど、声を掛ける様なことはなかった。
「座ろっか?」
翔と並んで座り、酒を飲み始めた。
顔見知りや、そうじゃない何人もが、
踊ろうと誘いに来たけど、
そんな気分になれない俺は断った。
「翔、行って来ればいいよ」
「俺もいいや…」
「ニノは~?」
「俺も、今、手が離せないから…」
ニノは相変わらずパズドラに夢中で。
いや、違うな…
夢中なふりしてるだけだ。
気持ちはそこにはきっとない…
翔は、周りにいる仲間と話している。
初対面がほとんどだけど、
巧みな話術で、いつの間にかみんなの中心的存在になっていて…
相手に合わせ、決して自分を主張し過ぎない彼は、
見た目通りの爽やかさで、
みんなの心を掴んでいった。
そんな姿を見ていると、
自分もそうやって翔に惹かれたくせに、
焦る気持ちが止められない…
そんな俺を、ニノはチラチラ見ていた。
Jが指定してきた時間は、当に過ぎていた。
もしかして、来れなくなった…とか?
それならその方がいい……
いや寧ろ、その方が好都合だ。
その時、
入口の方がざわついているのが分かった。
あれは……
人垣から、来ないで欲しいと秘かに願った待ち人が現れた。
来た!!
その人は真っ直ぐにこっちに向かって歩いて来て、
「よお」
と、笑いながら手を挙げた。