第13章 encounter〜出会い〜
それは一瞬の事で、避けることなんかできなかった。
その子の身体を押し退けようとしたその時、
俺がするより僅か早く、
女の子の手を引いて、俺たちの間に割って入った人が……
「キャッ///」
「…J…?」
「無理やりするのはよくないな~」
Jに言われ、その子は慌てて後ずさる。
「そうだよね?」
威圧的なその物言いに、彼女は気の毒なほど怯え、
慌ててその場から立ち去った。
………どうして?
激しいビート音の響くフロアの真ん中、
俺は、馬鹿みたいに立ち尽くし、
そんな俺のことを、Jは少しだけ笑って見つめている…
そこだけが……
ぽっかりと別世界のようで、
人々の話し声も、賑やかな音楽も、
だんだん聞こえなくなった。
この人………
やっぱり…
濃いパープルの瞳に見つめられ、
息をするのも忘れそうだ。
J……って、本当は…
その瞬間、俺の背中から、誰かがぶつかってきた。
俺はよろけて転びそうになり、
それをJが受け止めてくれた。
「あ、ありがと…」
「…また会おうよ…来週、ここで…」
「……えっ…ああ…えっと、来週は…」
Jは、意味ありげに笑って俺の背中に片手を回し、そのままグッと引き寄せた。
「…待ってるから…」
「……」
Jは、そのまま席に戻り、雅紀に何か耳打ちすると、店の奥に入っていってしまった。
まだその場から動けない俺のところに、
人を掻き分け、雅紀がやって来た。
「翔、席に戻ろう~?」
「うん…」
僅かな時間の中に、
色んなことが起こり過ぎて…
俺の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「翔、駅まで送るよ」
「え、あ、いや、まだ…」
ここに来てそんなに時間たってないし、
折角来たんだから…
「あのさ、ごめん…俺ちょっと用事が出来ちゃって…今度ゆっくり穴埋めするからさ~」
雅紀の目は、
俺に帰って欲しいと、そう言っている。