第13章 encounter〜出会い〜
「J〜!友達連れてきたよ♪」
人を掻き分け、急ぎ足で店の奥に俺を連れて行く雅紀は、嬉しそうにその人の前に立った。
「おう、雅紀!待ってたよ~」
「………」
雅紀は、Jと呼ばれた男の横にいた、金髪の女の子たちを蹴散らして、
自分が当たり前の顔で隣に座った。
当然その横に来るだろうと思っていた雅紀は、立ち尽くして固まっている俺に、
「どうしたの?翔…こっち来いよ!」
そう手招きした。
………
『J』の濃いパープルの瞳が、
俺を射抜く様に見つめている。
う、そ……だろ…?
この人が……J…?
この人が……
「どうしたの?翔…?」
「……あの…」
瞬きもしないで、じっとJの顔を見つめる俺を、『J』も、黙って見返している。
その異様な雰囲気に気付いた雅紀が、
強引に俺の手を引いて、自分の隣に座らせた。
「Jがあんまりカッコイイから、見惚れてたんでしょ?ね!翔。
J、前に話したよね?こっちは櫻井翔!
塾で一緒の…」
「…優秀な、お坊ちゃま、でしょ?あんた」
そう笑った『J』……
近くに来て確信した。
『J』って……
Jってさ……
「…じゅん…」
俺の小さな呟きは、『J』まで届かない…
「翔、何か飲む?ビールでいいよね〜?
…ねえ、翔!どうしたんだよ!」
雅紀が、慌てた感じで、耳元で囁いたけど、
俺は身動きひとつ出来なくて……
じーっと見つめたまま、
瞬きさえできないでいる俺に、
「雅紀〜、彼、なんか、具合でも悪いの〜?」
「え〜、そんなはずないんだけどな〜?
Jがカッコよくて見惚れてるんじゃない?翔、ほら、ビール!」
雅紀に強引にビールのグラスを
押し付けられた俺は、
気持ちを落ち着けようとグラスを煽った。
心臓が激しく脈打っていて、
喧騒の中……
俺だけが、一人ポツンと異空間にいるようだった。