第12章 irony of fate 〜運命の悪戯〜
「えっ?…なんで、俺の名前…」
驚いた…
驚いたなんてレベルじゃないくらいに、驚いた。
驚き過ぎて、固まる俺に、
「フフッ、ねえ…俺…トイレ…」
「えっ!?あっ!!ご、ごめん!!」
俺はトイレの入り口で、アホみたいに口を開けて突っ立ていて。
そのせいで、Jはトイレに来たのに、入れない状況が生まれていたらしい…
慌てて横に退くと、Jはクスッと笑いながら、
トイレに中に入っていってしまった。
心臓が……
心臓が、あり得ないくらいに鼓動を刻んでいる。
もう直ぐ、口から飛び出すんじゃないかと、
心配になる程だ。
風間があんなこと言うから…
それに俺…Jが好きだって、
さっき自ら認めてしまった。
その直後、こんな狭い通路で鉢合わせで、
しかも…
しかも、俺の名前を知っていた。
話したことも無いのに……
時々目くらいはあったこともあったけど、
1m以内に近寄ったことも無い…
なのに…雅紀…って…
俺を雅紀って…そう呼んだ…
なんで……
「あれっ?もしかして俺のこと待っててくれた、とか?」
「えっ??あ、いや、えっ?あの…」
あ――――――っ!!もう何言ってんのか、分かんないよ///
折角話せるチャンスなのに(´;ω;`)
「そういうとこ、可愛いよ…雅紀って🎵」
そう笑ったJはすれ違いざまに、チュッっと軽い音を立ててキスをした。
…………
……
な、なんだ!?今の…
嘘……だよな??
Jが…
あのJが、俺に…俺に、
キスするなんて//////
Jが触れた唇を、指でそっと撫でてみた。
まだ、柔らかいその感触が残っている。
『Jが、俺に、キスを、した』
思考が追いつかなくて固まる俺は、
フロアの喧騒の中で、必死に、
今あったことを、思い起こしていた。