第11章 空蝉
【翔】
……潤が突然帰って来た。
3週間という期限ぴったりに。
普通の顔して立っているから、
一瞬、心臓が止まるかと思った。
あんな修羅場のまま消えてしまったから、
帰って来ても、何かひと悶着あるのかもしれない、
そう覚悟していたのに…
…いつもの潤だった。
あんまり変わらな過ぎて、正直戸惑った。
「久しぶりじゃない~潤くん」
母さんも、潤の訪問を歓迎した。
「おばさん、これ、お土産です!俺、山行ってたんで…大したものじゃないんだけど…」
「まあ、ありがとう!山?そう言えば日に焼けたわね~♪一段とカッコよくなっちゃって!」
それから、親父も帰って来て、
みんなでビールを開け、潤の山小屋のバイトの話で盛り上がった。
……ホントに、山小屋に行ってたんだ…
親と話す彼の横顔を、そっと盗み見た。
屈託なく、目をキラキラさせて話すその顔からは、
潤の本心は、全く読み取れなかった。
…というより、何か心に抱えてるとは、
思えない…
智と殴り合って飛び出したなんて信じられない…
もしかして、あれは現実じゃなかったのかも?
と思わせるくらいに、潤は変わらなかった。
それが逆に、俺を戸惑わせている…
潤……お前、いったい…!?
「潤くん、今日はこのまま泊まっていけば?
翔の部屋に布団敷いてあげるから」
「え~?いいの?」
「もちろん!翔、潤くんに着替え貸してあげなさい」
「あ、うん…じゃ、風呂入る~?」
「うん!翔くん、一緒に入ろうよ!」
「え~?いいよ!一人で入れよ~」
「いいじゃん!!時間短縮!!ね?」
「ふふふ、そうやってるとホントの兄弟みたいね~♪」
「じゃ、おばさん、先にお風呂借りま~す。
行こ!翔くん!!」
……こうして、潤のペースのまま、
俺は潤と風呂に入ることになってしまった。
潤の気持ちも分からないままなのに…
俺…どうしたらいいんだろう…?