第10章 激しい雨の中で
【智】
「智、何?その顔!!」
翌朝、俺の顔を見た母さんが、驚きの声を上げた。
「ちょっとね…転んで…」
「転んでって、あなた、そんな顔になる~?
何したの?夕べ」
「それよりさ、潤は?部屋にいないみたいなんだけど…」
「朝早く出て行ったわよ、何か用があるんだって」
「なんの?」
「さあ、そこまでは聞かなかったけど…
そんなことより、智、あなたいったい…
ちょっと!!智!」
俺は母さんを無視して、階段を上がり、潤の部屋のドアを開けた。
いつも通りの潤の部屋…
主がそこにいれば完成する風景が、
どこか淋しげに見えた…
潤…
今夜帰って来るんだよな?
ホントに、朝、用があって出掛けただけだよな?
そう願う気持ちのどこかで、
潤はもう帰って来ないんじゃないか…
そんな気がして仕方なかった。
俺の悪い予想通り、深夜になっても潤は帰って来なかった。
でも、朝になったら布団で寝てるかも…
そんな期待虚しく、
潤のいなくなった部屋は、時が止まったようだった。
母さんは、
『どうせまた友達のことろでしょ』
と、取り合ってくれない。
まさか、翔くんを取り合って潤と殴り合いの大喧嘩したなんて言えないし…
確かに、今までも2日くらいは平気で帰って来ないこともあった。
今度もそうだといいんだけど……
翔くんは、連絡取れているのかな??
聞いてみたかったけど、
何となく顔を合わせずらいし、
電話もLINEも出来ないでいた…
潤…
今、どこで、何してるんだよ…
そう言えば、最近の潤が、
どんな友達と遊んでいるのか、全然知らない…
少し前は、だいたい把握してたのに。
こんなとき、潤の事を聞ける友達を把握していない自分に、改めて愕然とした。
俺……
潤の事…いつの間にか、
何も知らなくなってた…