第10章 激しい雨の中で
【智】
…そうだよ…
潤は…
潤は何も悪くない。
悪いのは、俺だ…
俺だけが悪いんだ。
翔くんは俺の誘いを断れなかっただけだ。
潤には……
翔くんという、
すべてを包んでくれる人の存在が、必要だった。
それを俺も分かっていたはずなのに…
俺はあの日、悪魔に魂を売った。
潤が、どんなに翔くんのことが好きで、
潤の全てだって…
分かっていて我慢できなかったんだ。
一回だけなら…
分からなければ、
バレなければ…
………違うな…
そんなこと考えてた訳じゃない。
何も考えてなかった…
ただ、
ただ翔くんが欲しかった…
その後どうしたいとか、
知ったら潤がどう思うか、とか…
そんなこと、俺何にも…
「潤…俺…」
潤の強い目に言葉が詰まる。
「智は、何でも持ってたじゃん…
父さんも、母さんも、智の事を愛してた…
智の事だけを…」
そんなことない…
「俺がどんなに勉強頑張っても、
どんなにいい子でいようとしても、
あの人たちは俺のことなんか見ちゃくれなかった…」
…潤……
翔くんは、俺と潤のやり取りを、
青ざめた顔で、黙って見ている。
「最初っから…俺がこの家に来たときから、俺のことなんか誰も……
俺はずっと…俺はずっと……
あの家で、家族ごっこをしている、他人のままだったんだ!!」
………潤……そんな風に……
ずーっと、お前、
そんなふうに思ってたのかよ……
泣き張らして、肩で息をする潤…
俺は、お前の兄ちゃんのつもりだったけど、
お前はそうじゃ、なかったんだな……
…………涙が、後から後へと溢れて零れた。
可哀想に……潤…俺が……
抱き締めたいと思ったその時、
「…潤…」
翔くんが、潤の腕を引いて、
胸の中に引き摺り込んだ。