第10章 激しい雨の中で
【智】
……赤くなった舌先…
無防備な翔くんに、ドキドキが大きくなる。
…こんなに近くにあるのに…
手を伸ばせば、抱き寄せることだって、
一歩踏み出せば、抱き締めてもらうことだって…
あの夜…
あの日を切り取ってしまったら、
俺たちは、どうなるの?
………俺、
もう一度…翔くんが、欲しい。
欲しいんだ…
今日、翔くんが一人だって知って、
俺はじっとしていられなかった。
潤にはもちろん教えなかったさ。
だって、こんなチャンス…そんなにない…
潤だって、黙ってりゃ、
早くなんか帰ってきやしない。
……いつかは忘れるから…
ちゃんと忘れるから…
もう一度だけ…
あの温もりに……
翔くんの胸に包まれたいんだ。
それだけ…
たったそれだけの事じゃん…
それが、そんなにいけない事?
だっていつも…
いつだって潤は、翔くんを、
翔くんのことを独り占めしてるんだから…
俺だって///
俺も…
俺だって、翔くんが…
俺は、テーブルの上に置かれた翔くんの手に
自分の手を重ねた。
「さとしくん…?」
「翔くん…」
見つめ合う目と目…
俺はその目に、精一杯の気持ちを乗せた。
『あなたが好き』と…
不安げにゆらゆら揺れる君の瞳…
俺、あなたの事、困らせてるの?
一回だけって、そう言ったのに…
分かってるよ?
ルール違反だってこと。
だけど…
分かっているけど。
もう止められないんだ…
翔くん、あなたへの気持ちが溢れ出して、
臆病なはずの俺の背中を押す。
戸惑いの色を宿した君の瞳を見つめながら、
俺は、さっき着たばかりの、
翔くんのTシャツを一気に脱ぎ捨てた。