第10章 激しい雨の中で
【翔】
ざわつく胸を悟られないように、
醬油ラーメンを口に入れた。
「あっち///」
一気にたくさん頬張り過ぎたんだ。
「ちょっと!大丈夫?水、水!」
智くんが冷蔵庫からミネラルウォーターを出して来た。
「ほら、飲んで…
全く~、何やってんだよ…」
「ごめん…」
「口の中、火傷しなかった~?」
「した…かも…」
「ほんとに…どこ~?」
智くんが俺の顔を覗き込むから、
俺はヒリヒリする舌を出して見せた。
「あ~あ、赤くなってるよ~?」
舌先を、智くんにじっと見つめられて、
さっき根性で沈めたザワザワが、また湧き上がって来る…
再び訪れた沈黙。
……あんなことがなかったら、
変わらず兄弟みたいな幼馴染でいられたのかな?
だけど、もう戻れない…
無かったことにもできない…
あの時のあの瞬間は、
潤じゃなくて、智くんが欲しかったんだ。
その気持ちを否定するつもりも、
後悔するつもりもない…
あの夜は、
あれで完結した…そうだろう?
倫理的にいいかどうかは別として、
あの時の俺は、確かに智くんを好きだった。
……ほんとに、そうだろうか?
終わったこと…?
なのに…どうしてこんなに胸がざわつくんだよ?
自分の気持ちが……
溢れ出す気持ちが…
「…智くん…あの…」
見つめるその顔からは、
智くんの気持ちは読み取れない。
困ったように眉を下げて、
俺をじっと見つめてる。
……もう、俺はこの手を取ってはいけないんだ。
そうだよね?
それが、その事実が、
俺の側から、智くんを遠くに連れて行った…
そんな気がして淋しかった。
手を伸ばせば…
届く距離なのに…
どうしてこんなにも、遠く感じるんだろう…