〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第59章 可憐に華、恋せよ乙女《後編》❀明智光秀❀
「……ごめんなさい」
その時、美依がぽつりと呟いたのが聞こえ。
俺が思わず視線を美依に向けると、美依は少し潤んだ瞳で俺を見つめていた。
その煽情的な眼差し。
心の柔らかい部分を刺激するような、そんな視線に囚われ。
俺は美依から目を逸らせなくなった。
「私は、ただ悲しかったんです。光秀さんが他の女の人と仲良さそうにしてて」
「美依……」
「失恋しちゃったなって思ってました」
「失恋?」
「はい、だって……」
すると、美依は困ったように、クスッと笑い。
可憐な花のような笑みを浮かべた。
そして、その薄桃色の小さな唇から……
俺が一番聞きたかった言葉を紡いた。
「私も、光秀さんが大好きですから」
(……っっ)
その笑みは、俺の不機嫌な心を温かく包み込むようで、トゲトゲとした感情が次第に和らいでいく。
波立った心が静まり、代わりに生まれたのは……
美依にもっと触れたい。
もっと愛を奥底まで確かめたい。
そんな色めく『男』としての蜜なる感情。
すぐに唇を奪って、柔肌を確かめて……
隅々まで貪りたいと言う、浅ましくも純な欲望。
「光秀さん……?」
思わず苦笑してしまった俺の名を、美依が呼ぶ。
お互い異性と居た事に腹を立て、苛々して。
理由も言わずに、お互いを責めて。
結局はただのヤキモチ、嫉妬、束縛。
なんだ、これではまるで……
「夫婦喧嘩のようだな」
「え?」
「まだお互いのものでもなく、気持ちが通じ合っていた訳でもないのに、俺達の言い合いはまるで恋仲か、夫婦の痴話喧嘩だ」
「あ、確かに…それっぽい」
美依も小さく苦笑する。
そんな姿も、やたら可愛らしく見えた。
コツンと額同士を合わせ、瞳を覗き込めば……
さっきは怒りに任せた自分の姿が映っていたのに、今度は馬鹿みたいに幸せそうに笑む自分が美依の瞳の中に居た。
ああ、俺はこのような顔もするのか。
想いが通じると言うのは……これほどまでに幸せなのだな。
そう思うだけで、心がこそばゆく。
温かいものに満たされていく感覚がする。