〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第57章 〖誕生記念〗二人だけの誕生日《後編》❀織田信長❀
その後、私と信長様は那古野城の城下町へ赴いた。
市の露店で、一緒に夕餉の材料を買い……
そのまま材料を持って、信長様の持ち物だと言う小さな家に案内された。
信長様はあまり城には帰っておらず、だいたいこの家で寝泊まりをし、好き勝手に過ごしているのだと教えてくれた。
『御家族の方は?』
そう尋ねたら、信長様はあっけらかんとしながらも、少し寂しげに、こう答えた。
『父は争い事には口は出さない。母は兄を溺愛している、俺は織田家ではただの『うつけもの』だ。なら、それならそれらしく、うつけで居た方が色々楽だ』
────きっと、この後
お父様が亡くなり、お兄様からの刺客が送り込まれ…
信長様がお兄様を討つまで、争い事は続くのだ。
まだ元服して間もない、まだ少年の信長様には、なんて痛ましくて過酷な運命なのだろう。
ならば……一時でも安らぎを。
少年が少年らしく、自分の生まれた日を喜び、お祝いしてくれる人と、ささやかでも幸せな時間を。
そう思ったら、胸が熱くなった。
『楽しいお誕生日のお祝いにしましょうね!』
私がとっさに、そう信長様に言うと。
信長様は困ったような、何とも言えない表情で、
『本当に可笑しな女だ、貴様は』と、笑った。
────いつしか空は嵐模様になり
横殴りの雨が、その小さな家に打ち付けた。
私がどうしてこの時代にタイムスリップしたのか。
夕餉を作りながら、雨の音を聞きながら、
私はずっと考えていたのだけど……
でも、思い当たる事は、一つしかなかった。
『信長様と誕生日を祝うため』
誕生日に独りでうさぎを狩る信長様に、一時でも安らぎと、心が弾む時間を贈りたい。
神様がそうやって言っているのだと……
私は、そうとしか思えなかった。
だったら、めいいっぱい信長様に楽しんでもらおう。
少しでも、笑顔になってもらおう。
私はそう思い、料理に力を入れた。
こんな機会は、きっと二度とないから。
そんな風にして始まった、信長様のささやかなお誕生日祝い。
まさか、信長様の口から、
『あんな事』を言われるなんで、露ほども思わず。
私と少年信長様の奇妙な宴は、それは楽しく、穏やかに過ぎていったのだ──……
────…………