〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第55章 尋常に勝負!-秘密の恋文-❀家康END❀
「取った……!」
川岸の枝に引っかかった瓶を、俺は我先にと拾い上げた。
誰にも負けない、負けられない。
そんな美依の恋文をかけた争奪戦。
勝利を掴んだのは……俺だ。
「くそっ、あと一歩早ければ……!」
「政宗、確かに勝負には負けたが、文に誰の名前が書いてあるか…そっちのが重要だ」
秀吉さんと政宗さんが背後で言い合っているのを尻目に、瓶から文を取り出し急いで広げる。
そこには何と書いてあるのか。
誰の名前がかいてあるのか……
思わず、固唾を飲んだ時だった。
濡れた俺の髪から、ぽたりと雫が落ち……
文の一部を濡らして、じんわりと文字を滲ませた。
「……っ、しまった……!」
思わず、上ずった声がでる。
しかも、前後の文章を読んでみれば……
ちょうど、想い人の名前が書いてあると思われる部分。
そこが濡れて滲み、読めなくなってしまっていた。
俺の声に気がついた秀吉さんと政宗さんも、俺の肩越しに文を覗き込む。
すると、その文の惨状に……
政宗さんが悲愴そうに『信じらんねぇ!』と叫んだ。
「どうすんだ、家康。それじゃ誰だか、解らねぇぞ」
「すみません、政宗さん…これじゃ、勝負に決着はついたとは言えないですよね」
「……いや、お前が美依に会いに行くべきだ、家康」
「秀吉さん……」
秀吉さんの言葉に思わず目を丸くする。
すると、秀吉さんはずぶ濡れの髪をうざったそうに掻き上げ……
少し不服そうにも、律儀な性格故の発言をした。
「一応は、文を手にした奴が、美依に会いに行くって約束だからな。勝ったのはお前なんだから、お前が行くべきだ、家康。でも、美依が例えば、お前以外の名前を書いていた場合は…俺や政宗にも勝機はあるって事、覚えとけ」
秀吉さんの言葉に、政宗さんも『違いない』と大きく頷く。
この人達は、やはり根っからの戦国武将なのだ。
汚い手を使ってまでは、勝とうとは思わない……
『負け』は『負け』だと認められる強さ。
俺は文を丁寧に折ると、ふっと笑い……
『絶対負けない宣言』を二人に投げかけた。