〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第6章 境界線のジレンマ《後編》❀徳川家康❀
「えっ……美依、風邪ですか?」
翌日。
美依の元を訪れた家康は、城で鉢合わせた秀吉の思いがけない一言に、思わず声を上げた。
秀吉は腕を組みながら、少し黙りこみ。
やがて、そのたれ目を家康に向けながら、話し出す。
「風邪って言うか、少し調子が悪いって言って寝てるだけだ。熱も少しあるし」
「そう、ですか…」
「お前達、なんかあったのか?」
「え?」
「美依の様子が、なんかおかしかったからな。お前達、昨日逢瀬をしてきたんだろ?」
「……」
そう問いかけられ、思わず口を噤む。
そう、昨日は久しぶりの、楽しい逢瀬だった。
自分にとっては、とても心安らぐ一時で。
美依も、本当に喜んでくれていたのに。
最後に…己がそれを全てぶち壊した。
我を忘れて、美依の身体を貪ったなんて。
そんな事は言えるはずもなく、ただ黙るしかない。
帰る時も美依は一言も口を利かなかった。
酷く、傷つけてしまったのだ。
すると、秀吉はその空気を察したのか…
腕を伸ばし、頭を犬のように撫でてきて。
なんだか、とても優しい口調で諭すように言う。
「何があったかは聞かないが、美依と上手くやれよ?兄貴として、美依のあんな姿は心配だからな」
「すみません、秀吉さん」
「見舞いにでも行ってやれ、部屋で寝てるから。ああ、林檎を渡すから美依に持って行ってやるか?」
「…はい」
そのまま秀吉の後に続き、見舞いの林檎を取りに行く。
秀吉は何も聞かず、仲が上手く行くようにと、取り持ってくれているようだった。
兄のような、その態度。
それはきっと美依にだけではなく…
皆にこの人は優しいのだと。
改めて、その人柄に尊敬と言うか、少し羨ましくなる。
「秀吉さん」
「なんだ?」
「秀吉さんは…馬鹿みたいに女の肌を求めた事ってありますか?我を忘れるくらい…貪った事とか」
「家康……」
思わず、秀吉に問いかけてみると。
それだけで、秀吉は美依との間に何があったのか。
それをなんとなく察したようだった。
林檎を渡され、ぽんと肩を叩かれる。
そして、秀吉は優しい眼差しと優しい口調で、また諭すように言葉を紡いだ。