〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第51章 花時雨と恋情のアイロニー《後編》❀石田三成❀
「え、美依様が帰って来ていない……?」
翌日。
早朝に公務で安土城に訪れた私は、秀吉様の言葉を聞き、思わずオウム返しで聞き返した。
すると、秀吉様の方がびっくりした表情を浮かべ……
次に眉間にシワを寄せながら、再度私に問いかける。
「なんだ、お前の御殿に泊まったんじゃないのか、美依は」
「いえ、確か美依様は昨日、政宗様の所へ…」
「政宗?」
自分で言っていて、内心嫌な心地を覚えた。
昨日美依様は人参料理を政宗様に習うと言って、御殿に行ったはずだ。
だって『あの後』、確かに美依様を送り出したのだから。
帰って来ていない、それはつまり。
政宗様の御殿で、一夜を明かしたと言う見立てが正しいだろう。
────夜通し料理するなんて、有り得るのか?
「すみません、秀吉様。少し抜けます」
「三成?」
「すぐに戻って来ますので……!」
私は公務を放り出して、急いで政宗様の御殿へと駆け出した。
何故だろう、何か嫌な予感がする。
美依様に限って、何かあるとは思えないし。
『心配する事は何も無い』と言った、政宗様を信じているけれど。
それでも、拭いきれない焦燥感が襲う。
あの時、まだ顔が蕩けたままの美依様を送り出したのは、この自分なのだから。
まだ少し小雨の降る中、逸る心を抑え……
私はひたすらに御殿目指して、足を動かした。
────…………
陽の出前なので、外はまだほんのり薄暗い。
刻で言えば明六つ。
だから通りにはまだ人の姿もなく、静かな空気に、自分が駆ける音だけがやたらと響いていた。
そんな中、政宗様の御殿の側まで来てみると……
(話し声がする……?)
よく聞きなれた声がしたので、一瞬足を止めた。
そして、そのまま聞き入ってみると、何やら言い争っているような感じで。
私思わず聞き耳を立てながら、少し離れた場所から御殿の玄関の様子を伺った。
すると、そこには二人の人影。
見慣れた淡色の着物をまとった、愛しい恋人と。
私の尊敬する、蒼い目の武将の姿。
二人は何か深刻な様子で……
向かい合うこともせず、言い合っていた。