〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第5章 境界線のジレンマ《前編》❀徳川家康❀
────可愛い可愛い、俺の美依
幸せなんて要らない、欲しくない
そう突っぱねたのは、いつだっただろう
子犬のように、ひょこひょこ後を付いてきては
俺のする事なす事に、いちいち反応して
すぐに笑ったり、すぐに泣いたり
コロコロ変わる表情は、いつも俺を悩ませた
いつしか俺は、この子を可愛いと思うようになり、
必然的に心惹かれて、好きになって
『あんたが好きだ、美依』
そう気持ちを打ち明けたら、泣いて笑って
そして、可愛らしく言ってくれた
『私も家康が大好きだよ』
それからと言うもの……
美依には惹かれる一方で、
この子無しでは居られないと思うほどに
だから、責任持って、傍にいて
大切すぎて、まだ手も出せないけれど
それでも、いつかはあんたが、欲しい
俺は──……
あんたが、本当に大好きだよ、美依
いつまでも、俺だけのもので居て
(ああ、本当にいい天気だな)
空を仰いで、一回息を吐く。
今日は晴天。
秋晴れも清々しく、気温は少し低いけれど、日差しの暖かさはまだまだ冬には遠い。
そんな中、少し離れた所で花を詰む美依を見て……
家康は、思わず目元を緩めた。
「見て見て、家康!綺麗な花が咲いてるよ!」
美依はさっきから、花を見つけてはしゃがみ込み、興味深々で眺め……
また見つけては、こちらを振り返り、手を振る。
ひょこひょこと小動物のように動く仕草が、なんとも言えず、可愛らしい。
今日は美依と久しぶりの逢瀬だ。
公務だったり、地方の遠征だったり。
何かと忙しく、最近恋仲になったばかりの美依を構ってやれる時間も余りなく……
それでも、今日何とか時間を作って山際の野原へやってきた。
久しぶりに出掛けられると言う事が嬉しいのか、美依は終始ニコニコと笑顔でいる。
そんな美依が、可愛くて愛しくて……
あまりに大事にしているせいで、まだ身体も重ねていない。
いわゆる清い仲と言うやつで。
欲しいと言う気持ちは常にあるけれど……
それでも、男の欲望だけで、美依を抱く事はしたくない。
それが最近、目下の悩みの種になっていた。