〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第24章 カンタレラに久遠の蜜謳を《後編》❀上杉謙信❀
────同じ世界を、見てみたいと
我が世も誰も、永遠ではない。
美しいものも、醜いものも、
夢のまた夢、いつしか消えるのだから
浅はかな夢など見るまい、酔いもしない。
けれど、久遠の想いがあると言うならば
この毒された身に教えてくれ
甘く蜜なる、お前だけの謳を。
色は匂へど散りぬるを
我が世誰ぞ常ならむ
有為の奥山今日越えて
浅き夢見じ酔ひもせず
────我、散り行く花ならば
その花弁の一片でも
紅い雪のように、心に降り積もれ
雲が千切れて、虹が掛かる前に────…………
「謙信様と美依さん、何処に行ったんだろう」
宴もとっくにお開きになり。
謙信が美依を連れ去った事で、すっかり盛り下がってしまった幸村と信玄を帰すと、佐助は二人を探して城中をうろうろしていた。
正直、連れ去った時の謙信は、ただならぬ様子だった。
ちょっと美依さんを囲って、やり過ぎたかな。
佐助はそんな事を思って、ため息をついた。
目の前で主君を見ていて、明らかに美依に恋慕を抱いていたのは解っていた。
それが性格故に、多少歪んでいることも。
謙信は女には臆病で、美依に寄せているものが、多少ねじ曲がった感情だとしても……
それでも、その激情は呆れるくらい一途なのだ。
それが解りすぎるくらいに解るから、辛い。
あの人は、器用な生き方が出来ないのだ。
「変な事になってないといいけど……」
廊下から庭先に目を向ける。
空からは牡丹雪が絶え間なく降っていた。
漆黒の闇に、大きな牡丹の花びらのように……
静かに深々と降り積もる。
牡丹雪は『春を告げる雪』と呼ばれるように。
春先によく降り、水分を多く含んでいる為に、儚く溶けて消えるのが定めだ。
何故だろう、その姿が。
あの謙信の姿と被って────…………
少し、切ない気分になるな。
佐助は凍える指先をきゅっと握りしめ。
その雪の華を見ては、少し思いを馳せた。
────…………