〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第3章 華火と微熱と光秀さん《前編》❀明智光秀❀
────明智光秀
私は、この人が苦手だ。
いつも意地悪をするし、人をからかうし。
何を考えてるか解らないし。
その上味音痴で、出した甘味も混ぜて食べるし。
……でも、気になる
時折見せる、優しい顔。
頭を撫でる、骨ばった大きな手。
『美依』
私を呼ぶ、低い声。
低くて甘い──………
心を締め付ける、声。
「えっ……光秀さん!?なんでここに」
安土城、城下にある一軒の茶屋。
そこに訪れた『意外な訪問客』に、私はびっくりして声を上げた。
この茶屋を手伝い始めて、早七日。
いつも世話になっている茶屋の看板娘が、身体を壊し寝込んでしまったと聞き……
何か手伝えないかと思い、代わりに働き始めた。
しかし───…………
これほどの『珍客』は居ないと我ながら思う。
そう思って、椅子に腰掛けるその客を、頭から足の先まで眺めると。
その淡い瞳を意地悪く細めながら、これまた意地悪な口を開いた。
「なんだ、美依。俺が来て嬉しくないのか」
「嬉しいか嬉しくないかと言えば、あんまり嬉しくないです」
「失礼な小娘だな、お前が手伝っていると言うから、わざわざ様子を見に来てやったのに」
「そ、それは感謝しますけど……光秀さん、甘い物の味解るんですか?」
「さぁな」
その返答に、がっくり項垂れる。
光秀さんの味音痴は城中に知れ渡るほどだ。
一緒に夕餉を食べた時、全て混ぜて食べていた記憶があるし……
それに『腹に入れば皆一緒』と言う、作り手側からすると、何とも残念な考え方は、どうしても共感出来ない。
とりあえず茶を出し『何か食べますか?』と尋ねる。
すると、案の定『何でもいい』と帰ってきた。
「なんでもいいんですね、じゃあ待っててください」
そう言って奥に引っ込む。
甘味を用意しながら、暖簾のすき間から視線を泳がせ。
何となく、ちらっと店内を伺うと……
茶屋の主人と談笑する光秀さんが目に写った。
(……また、からかいに来たんだよね、きっと)
光秀さんは城でもなんでも。
顔を合わせれば、意地悪を言ったり、意地悪をしてきたり。
本当に神経が擦り切れると言うか……
完璧に子ども扱い、そして玩具にされている。